mistica

第一章

2話 – 共犯

2026.06.27

俺たちのライブは成功だった。
同時に俺は、俺たちだけの秘密を持った。

***

最初は”違和感”だった。

いつもより多い観客と歓声。
そのせいだと思っていた。

いや、俺がそう思いたかったのかもしれない。

ステージの端と端。
表情なんて見えない距離だった。

それでもおそらく、マコトは笑っていた。
少なくとも、そう見えた。

歓声が上がる。
そのたびに、マコトの視線は客席をなぞる。

見ている。

そういう言葉が一番近いはずなのに、なぜか違う気がした。

ぞくり、とした。
理由は分からない。

恐怖でもない。
嫌悪でもない。

同時に、胸の奥がわずかに熱を持つ。
気付けば、次の歓声が上がるまで俺はマコトから目を離せなかった。

***

「今日すごかったー!」

まひろの声で我に返る。
控室ではライブの余韻がまだ残っていた。

「客席めちゃくちゃいたよね!!」

「楽しかったあ」

「おい、口と同時に手! 機材片付けてけよ」

「はあい」

「はーい!」

いつもの光景。
いつものやり取り。
だけど、その中でマコトだけが静かだった。

俺は視線を逸らす。
けれど、気付けばもう一度マコトの方を見ていた。

「マコト」

反応はない。

「水余ってるけど…いる?」

返事は返ってこない。
タオルを被ったまま、微動だにしない。

「……ここ置いとくね」

ペットボトルを近くの机に置く。
そのまま立ち去ろうとした瞬間、手首を掴まれた。

思わず足を止める。
振り返ると、タオルの隙間から覗くマコトの目がこちらを見ていた。

マコトは何も言わない。
俺も何も言わない。

だけど、言いたいことはなんとなく分かった。

「オトハとマコトは片付け終わったー?もう出れそう?」

まひろがこちらを見る。

俺は掴まれた手首を見て、それから小さく息を吐いた。

「俺、マコトの片付け手伝ってから出るから」

手首にかかる力が、少しだけ強くなる。

「え?いいの?俺も手伝うよ?」

「ううん、俺一人で大丈夫。先行ってて」

「わかった!」

「早く来いよー」

「おなかすいたあ」

「戸締まり頼むな」

三人は特に気にした様子もなく、控室を出ていった。

扉が閉まる。
静かになった部屋に、俺とマコトだけが残された。

次の瞬間、腕を強く引かれる。
体勢を崩しかけて、思わずマコトを見る。

近い。

そう思った時には、もう遅かった。

唇が重なる。
乱暴だった。

いや、焦っていたのかもしれない。
離れたくせに、すぐにまた触れてくる。

息が熱い。
ライブの熱がまだ残っているのか、それとも別の理由なのか。

分からない。
分からないけれど、今はそれを確かめる気にもなれなかった。

息が触れるたび、輪郭が曖昧になっていく。

マコトの熱なのか、俺の熱なのか、もうよく分からない。
ただ、混ざっていく感覚だけがあった。

扉の向こうに、まだ三人がいるかもしれない。
そんなことさえ、今はどうでもよかった。

マコトが触れるたび、熱の境界が曖昧になっていく。
ずっと胸の奥で燻っていた熱を、掻き回されたような気がした。

苦しい。

そう思っていたはずなのに、少しずつ楽になっていく。
張り詰めていた何かがほどけていく。

息を吐く。

気付けば、それまで抱えていた焦りも、息苦しさも、どこか遠くへ追いやられていた。

何も考えなくていい。
何も隠さなくていい。
ただこの熱だけに身を委ねていればよかった。

マコトの熱と、俺の熱が幾度となく交わる。
それだけで十分だった。

そう思った。
そう思ったはずなのに、胸の奥で燻っていた熱は消えてはいなかった。

むしろ、少しだけ大きくなった気がした。

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