mistica

第一章

6話 – 視線

2026.06.27

リハーサル終わりの控室で、まひろが突然大声を上げた。

「マコトとオトハの不仲説ぅ?」

「そう! SNSで、ほら!」

俺は、突き出されたスマホを覗き込む。

『最近misticaのマコトとオトハ仲悪くない?』

『ステージで全然絡まなくなったよね』

『喧嘩した?』

「はぁ〜…?どうせ勘違いだろ」

そう言ってスマホを返した。

実際、不仲なわけがない。
その時は本気でそう思った。

***

ライブ中、あいつらは確かに距離を取っていた。

目も合わせない。
必要以上に話さない。

客から見れば不仲に見えるかもしれない。

だが終演後になると、どちらかが消える。
少し遅れて、もう片方も消える。

最初は偶然だと思った。

二回目も。

三回目も。

だけど四回目くらいで、さすがに偶然じゃないと気付いた。

不仲どころじゃない。むしろ逆だ。

近い。近すぎる。

なにかを隠している。
そう考える方が自然だった。

***

ある日の夜。
まひろは実家に帰っていて、えいすけはいつもの如くどこかに消えていた。
オトハとマコトは2階の自室に篭っているようだった。

俺は1階のリビングで作業をしながら、そういえばあの2人、今日降りてきてないなと思った。

時計を見ると、深夜一時。
あいつら腹減らないのかな。そう思い、2階へ。
最初にノックをしたのはオトハの部屋だった。

「オトハ?お前今日飯食ってなくね?なんか作る?」

返事がない。

「…?」 

寝てんのかな、と思いながらオトハの部屋に背を向けて、マコトの部屋にも声をかけようとしたところだった。

キィ、と扉の開く音。
振り返ると、出てきたのはマコトだった。

髪は少し乱れている。少しだけ、頬が赤い。

俺と目が合って、数秒の沈黙。

「あ」

それだけだった。

「は?」

思わず声が出た。

マコトが首を傾げる。

「なに」

「なにじゃねえよ」

「何?何か怒ってんの?」

「お前ら今2人で何してた?」

「何って」

はは、と笑うマコト。
俺はその顔にカッと顔が熱くなる。

「なんだよ、言えねえことやってたのか」

「い〜や?言ってもいいけどお前が聞きたくないんじゃねェかなと思って」

「お前、自分が何やってるか分かってんのか」

「分かってるけど」

マコトは面倒そうに頭をかいた。
わざとらしいため息。

「お前倫理観どうなってんだ」

「あー」

マコトが笑う。

「またそれかよ」

「は?」

「相変わらずのカタブツくんだねぇ」

「お前こそまたその煽りかよ。今回はいつもみたいにばかばか言って平和に終われると思うなよ」

「はは。こわ」

「オトハは?」

「ん?部屋で寝てるけど」

「そうじゃねえだろ…」

怒りで唇が震え始めたとき、

「ゆず〜、大きい声出してどうしたのお」

と、えいすけがぱたぱたと階段を登ってきた。

俺は言葉を続けようとした口をぐっと閉じた。
えいすけには悟ってほしくない。

「…なんでもない。えいすけ、腹減ってないか?俺なんか作るよ」

「ほんとお?…二人とも、喧嘩してたの?」

「いや。大丈夫」

ちら、とマコトの方に目をやると、壁にもたれかかり、わざとらしく欠伸をした。
…こいつも、末っ子には優しいらしい。

「オトハも納得してんのか」

「ん〜?俺は合意なしじゃしない主義」

口角を上げるマコト。
即答だった。

俺は小さく息を吐く。

ふと視線を横にやると、えいすけは俺とマコトを交互に見ていた。

こいつは妙なところで人の感情を拾う。
俺たちが気づかないところまで。

そのえいすけは、まだいつも通りだ。
少なくとも、今すぐどうにかしなきゃいけない話じゃない。

なら、まだ踏み込むべきじゃない。
そう思った。

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