mistica

第一章

8話 – 日常

2026.06.27

ライブ終わりの居酒屋だった。

「なー、そっちの枝豆取って」

マコトが箸を伸ばす。
皿はテーブルの反対側にあった。

「お前なら届くだろうが。ったく……」

俺はマコトの方に皿を押しやった。

「ゆずクンやっさし〜」

「うるせえ。もう二度と取らねえぞ」

マコトは笑いながら枝豆を摘まむ。
その隣では、えいすけが運ばれてきたパフェを嬉しそうに眺めていた。

「お前またパフェからかい」

「いいじゃん〜。マコトは細かいなあ」

えいすけは早速スプーンを入れる。

「ほら、マコト食べる?」

「いらんいらん」

「おいしいのに」

「飯食ってからにしろ」

「パフェもご飯だよお」

「どこがだ」

いつものやり取りだった。
ライブの反省会と言いながら、結局こうなる。

誰かが飯を食って、誰かが騒いで、誰かが呆れる。
だいたい毎回そうだ。

「ねえねえ今日のMC聞いてた?」

まひろが身を乗り出す。

「聞いてたよ」

オトハが答える。

「俺調子良かったでしょ!?あ!そう言えばオトハ噛んでたよね!?」

「そうだっけ」

「そうだよ!」

まひろは楽しそうだった。
オトハも少しだけ笑っている。

でも、問題はそこじゃない。

***

トイレから戻る途中だった。

店の入口近く。
壁にもたれてスマホをいじるマコトを見つける。

「なあ」

「んー?」

顔も上げずに返事をする。
数秒だけ黙って、それから言う。

「……オトハとの関係、正直まだ俺は納得してねえから」

ようやくマコトが顔を上げる。

「は~、やめろよなァ〜」

「は?」

「酒がまずくなる」

その顔は心底嫌そうだった。

「てかもうその件は終わった」

マコトは即答した。

「終わった?」

「だから安心してくださいお兄様〜」

ひらひらと手を振る。

その態度が気に食わない。
ぐっと息を大きく吸ったあと、深く吐いた。

「お前どこまで自分勝手なんだよ……」

「ちげーよ」

マコトは笑う。

「ばーか」

「あ?」

「ばーか」

「あ!?ばーかじゃねえだろばーか!!」

***

「ん?」

声がして、振り返る。
そこにいたのはまひろだった。

「あれ、二人なにしてんの?戻らないの?」

「や、別に。すぐ戻る」

そう答えたのと同時だった。

「助けてまひろ〜。カタブツゆずが俺をいじめる〜」

「はぁ!?」

思わず声が大きくなる。

「やめなよお」

後ろからえいすけも顔を出した。

「お店だよお」

「ほーらみろ〜」

「マジで腹立つお前」

「相変わらず短気ィ」

「お前が原因だろ!」

マコトは笑っている。
本当に腹が立つ。

まひろは状況を分かっていない。

えいすけは止めている。

そして少し離れた席では、オトハがこちらを見ていた。

「やめなよお」

えいすけの声が飛ぶ。
もちろん誰もやめない。

これもいつものことだった。

← 前の話 7話 – 選択 一覧