mistica
第一章
ライブ終わりの居酒屋だった。
「なー、そっちの枝豆取って」
マコトが箸を伸ばす。
皿はテーブルの反対側にあった。
「お前なら届くだろうが。ったく……」
俺はマコトの方に皿を押しやった。
「ゆずクンやっさし〜」
「うるせえ。もう二度と取らねえぞ」
マコトは笑いながら枝豆を摘まむ。
その隣では、えいすけが運ばれてきたパフェを嬉しそうに眺めていた。
「お前またパフェからかい」
「いいじゃん〜。マコトは細かいなあ」
えいすけは早速スプーンを入れる。
「ほら、マコト食べる?」
「いらんいらん」
「おいしいのに」
「飯食ってからにしろ」
「パフェもご飯だよお」
「どこがだ」
いつものやり取りだった。
ライブの反省会と言いながら、結局こうなる。
誰かが飯を食って、誰かが騒いで、誰かが呆れる。
だいたい毎回そうだ。
「ねえねえ今日のMC聞いてた?」
まひろが身を乗り出す。
「聞いてたよ」
オトハが答える。
「俺調子良かったでしょ!?あ!そう言えばオトハ噛んでたよね!?」
「そうだっけ」
「そうだよ!」
まひろは楽しそうだった。
オトハも少しだけ笑っている。
でも、問題はそこじゃない。
***
トイレから戻る途中だった。
店の入口近く。
壁にもたれてスマホをいじるマコトを見つける。
「なあ」
「んー?」
顔も上げずに返事をする。
数秒だけ黙って、それから言う。
「……オトハとの関係、正直まだ俺は納得してねえから」
ようやくマコトが顔を上げる。
「は~、やめろよなァ〜」
「は?」
「酒がまずくなる」
その顔は心底嫌そうだった。
「てかもうその件は終わった」
マコトは即答した。
「終わった?」
「だから安心してくださいお兄様〜」
ひらひらと手を振る。
その態度が気に食わない。
ぐっと息を大きく吸ったあと、深く吐いた。
「お前どこまで自分勝手なんだよ……」
「ちげーよ」
マコトは笑う。
「ばーか」
「あ?」
「ばーか」
「あ!?ばーかじゃねえだろばーか!!」
***
「ん?」
声がして、振り返る。
そこにいたのはまひろだった。
「あれ、二人なにしてんの?戻らないの?」
「や、別に。すぐ戻る」
そう答えたのと同時だった。
「助けてまひろ〜。カタブツゆずが俺をいじめる〜」
「はぁ!?」
思わず声が大きくなる。
「やめなよお」
後ろからえいすけも顔を出した。
「お店だよお」
「ほーらみろ〜」
「マジで腹立つお前」
「相変わらず短気ィ」
「お前が原因だろ!」
マコトは笑っている。
本当に腹が立つ。
まひろは状況を分かっていない。
えいすけは止めている。
そして少し離れた席では、オトハがこちらを見ていた。
「やめなよお」
えいすけの声が飛ぶ。
もちろん誰もやめない。
これもいつものことだった。